※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年5月号からの転載です。

『短歌ください』の連載も気づけば20年近くになり、単行本も6冊目。記念対談のお相手は、初期からの常連であり、プロの歌人としても活躍する鈴木晴香さん。『短歌ください 双子でも片方は泣く夜もある篇』(角川文庫)で解説も執筆し、穂村さんへの敬愛も強い鈴木さんに、短歌の魅力と今作でとくに印象深かった歌についてうかがいました。
穂村:今回のサブタイトル「反対に回して」は鈴木さんの【この部屋の鍵をあなたに渡しつつ「思うのとは反対に回して」】からです。鍵を渡すほどの関係性でありながら、相手が思うとおりに回すと開かないことを確信している。どんなに近しい間柄でも自分と同じではない、他者性を象徴しているのがいいなと思ったんですよね。部屋と言いながらそれは心の鍵でもあるんだろうな、と思うし、二人の間にどんな物語が流れているのか想像させてくれるところもいい。
鈴木:想像を可能にする余白こそが短歌の魅力だと思うんです。おっしゃるとおり、相手は圧倒的な他者ではあるけれど、逆に回すであろうことは確信している。そんな二人の経緯を省略するところに、味わいが生まれるのがいいな、と。
穂村:僕は結婚してずいぶん経つけど、いまだにお弁当を買うとき予測する「妻はこっちを選ぶだろう」が外れるんだよね(笑)。だから「こっちが好きだと思うけど、いつも外れるからきっとこっち」と思うと、やっぱり逆を選ばれる。その、どうしたって理解できないはずの他者性を体感できるのが短歌でもある気がするんですよ。たとえば百歳の人のもつ実感は、今の僕自身とはかけ離れていて聞いたところで想像すらできないんだけれど、短歌を介してなら、百歳の人の着ぐるみに入って、つかのま疑似体験することができる。