※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年5月号からの転載です。

『シェニール織とか黄肉のメロンとか』は「読んで楽しいを目指し」、『ブーズたち鳥たちわたしたち』では「読んでびっくりしてもらいたい」と語っていた江國さん。
「今作は、“読んで自由になってくれたらいいな”と思いながら書いていました。ここに出てくる人たちは皆、ちょっとはずれ者というか、一般的には褒められる感じではなかったりするのですが、それでも全然大丈夫、というところから、それを感じてくれたらと」
斎場で働く4回も結婚をした真実子、彼女の3番目の夫にもなった豊樹と暮らし、さらに同居人を受け入れ、夜はバーテンダー、昼はフリーターを続けている真実子の弟の功、離婚後、ひとりで自分を育ててくれた母から受け継いだ私設図書館・南天文庫を営むあやめ。次々と移っていく視点人物の多くは1970年代、「ピンクの家」で不法に暮らしていた3家族の子どもたちだ。
「以前、四日市市に行ったとき、ピンクの建物があったんです。今は使われていない公民館だったのですが、“空いているんだったら忍び込めるかも。仲良しの友達と3、4人でここに住んだら楽しいだろうな”という空想が湧いてきて、それを物語に入れ込みました。ピンクの家で共同生活をし、兄弟のように育った子どもたちは、昔も今も、互いのことを家族だと思っている。まったく縁のない同居人となぜか暮らしている功もそれは同じで。家族というものひとつとっても、定型に捉われなくていいんだ、というふうに思ってもらえたら嬉しい」