
フランスの小説家、メリッサ・ダ・コスタのデビュー作『空、はてしない青』。若年性アルツハイマーで余命2年を宣告された青年・エミルと、謎めいた女性・ジョアンヌがピレネー山脈を旅する長編だ。世界で200万部超というヒットを記録した同作の日本版がこのたび、2026年の本屋大賞翻訳小説部門を受賞した。翻訳を手がけたフランス語翻訳家の山本知子さんに、『空、はてしない青』日本語訳に関するエピソードや、メリッサ・ダ・コスタの日本第2作『立ち上がる時』の魅力についても話してもらった。
『空、はてしない青』は風景や心情がリアルに浮かぶ映画のような作品
――『空、はてしない青』を初めて読んだ時の印象はいかがでしたか?
山本知子さん(以下、山本):700ページ近くというボリュームのある原書ですが、読み始めると、描写がとても細かく丁寧でわかりやすく、シーンの映像が頭に浮かんできて、まるで映画を観ているかのようにどんどん引き込まれていきました。エミルとジョアンヌのふたりがキャンピングカーでピレネー山脈を旅する話なのですが、大自然の風景はもとより、セリフからふたりの心情が手に取るようにわかって、長い物語ながら、あっという間に読めてしまいました。
私はそんなに涙もろいほうではないのですが、特に最後の数章は結構、泣いてしまって。最初に読んだ時だけではなく、翻訳作業や校正で自分の訳文を読むたびに、ストーリーを全部知っているにもかかわらず、そのシーンでは毎回、どうしても泣いてしまうんです(笑)。それほど感動的な作品でした。
――原書の魅力を伝える翻訳のアプローチとはどういうものなのか気になりますが、翻訳をする時は、原書の文体によって、日本語の文体やアウトプットの方法を変えているのでしょうか?
山本:文体をあえてこうしようという意識は持たず、まずは原文に忠実に訳します。私は硬めのノンフィクションも翻訳しますが、そういう書籍はフランス語でも硬い文章で書いてあるので、硬い文章で訳します。原文が平易な作品は、日本語もそれにあった文章にします。そして原文がどうであれ、最後には日本の読者がストレスなく読める表現に調整していきます。