
『中通りダイアリー』(三月薫/KADOKAWA)は、福島県を舞台に、突然始まった新しい家族との暮らしをきっかけにひとりの女性の止まっていた青春がゆっくりと動き出す物語。
主人公・桃生千笑は、実家の桃農家を手伝いながら暮らす21歳。そんな彼女のもとに、亡くなった姉の息子・晴がやってくる。両親を相次いで亡くした小学生の晴が望んだのは、ただひとつ「野球を続けたい」ということだけだった。千笑は近所のグラウンドへの送迎くらいならと、晴の希望を叶えることを約束するが、その瞬間から彼女の生活が劇的に「めんどう」になっていく。
晴が望む野球チームが練習するグラウンドは白河市にあり、千笑たちが暮らす伊達市から約100kmも離れた場所だったのだ。福島県の北端から南端まで、毎週車で送り迎えするというのは現実的ではない。しかし、晴が白河に行くことにこだわる理由は、これまで野球に一生懸命打ち込んできた場所であり、亡き母親との思い出が残る大切な場所だからだ。千笑は彼の願いのため、父親の反対を押し切って遠すぎるグラウンドへの送迎を決意する。その姿は単なる「親戚のお姉さん」ではなく、新しい絆を築き上げていく家族そのものだ。