
ホラーとミステリーを横断しながら、読者の胸にじわりと残る“怖さ”を描き続けている作家、阿泉来堂さんと嗣人さん。民俗的なモチーフ、心の襞に分け入る人間描写、そして魅力的なキャラクター――その共通点から、両者を並べて語る読者も多いのでは。
初対談となる今回は創作の出発点から恐怖の原風景、そして「怖さ」を物語へ変える方法まで、じっくり語りあっていただきました。
読みたい本が見つからなかったから、自分で書くしかない
――お二人が小説を書きはじめたきっかけから教えてください。
嗣人さん(以下、嗣人):僕は16歳のときです。上遠野浩平先生の「ブギーポップ」シリーズと出会ったのが大きかったですね。それまであまりライトノベルは読んでいなかったのですが、あの作品には“剣と魔法”ではなく日常の延長線に怪異がある。そこに一気に引き込まれ、自分もこういうのを書いてみたいな……と。巻末に電撃大賞の募集要項があり、「(締め切りまで)あと2週間あるなら書けるかもしれない」と思って短編を書きました。それが最初です。
阿泉来堂さん(以下、阿泉):僕の方はもう少し消極的なきっかけです。22、23歳のとき本屋へ行ったんですが、2時間探しても読みたい本が見つからなかったんです。それがなぜか、とてもショックで。「じゃあ自分で書くしかないな」と思い、書きはじめました。
――「書きたいから書く」ではなく、「読みたいものがないから書く」という発想だったんですね。
阿泉:そうですね。当初は(書いたものを)友人に読んでもらって楽しむくらいだったのが、次第に書くこと自体が面白くなっていって。気づいたら続けていました。
――デビューへの道のりも対照的ですね。嗣人さんはWebでの作品発表が、阿泉さんは賞の受賞がデビューのきっかけでした。
嗣人:当時はとにかく忙しく、一日15時間くらい働いていたので、長編に取り組む時間的余裕も精神的余裕もなかったんです。だからnoteで少しずつ発表する形で執筆しました。それで『夜行堂奇譚』(産業編集センター/角川ホラー文庫)のように短話を積み重ねていく構成になり、時系列もバラバラという形に。