
私が50代になって思うのは、自分にはあまり時間が残されていないということだ。人生100年と考えれば折り返し地点、まだ時間はあるのかもしれないが、若い頃のように何も考えず、なり振り構わず何かに打ち込むことは少なくなった。その代わりに増えているのは、ふと立ち止まり、自分の生活に目を向ける時間だ。だから、原田ひ香の新作小説『#台所のあるところ』(文藝春秋)に登場する女性たちに、共感せずにはいられなかった。
本作には、誰かとの暮らしを頑張るうちに自分の気持ちを見失ってしまった5人の女性たちが、再び立ち上がるまでの物語が綴られている。彼女たちが多くの時間を過ごす「台所」は、現時点の生活そのものを表す場所でもある。『三千円の使いかた』でお金の使い方を丁寧に描いた作者が、本作では、料理を作り、食べる風景を通して彼女たちの心に浮かび上がる、それぞれの迷いと決断を綴っていく。作品の中に度々登場する調理を実際に試し、彼女たちの気持ちごと、味わってみた。
●いろいろなことを諦めていた、敦子が作る朝ごはん

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