※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年6月号からの転載です。

「サクラチル」という現実から始まる、ほろ苦い春がある。
「志望していた大学に現役合格できなかった。そんな挫折感を抱いて予備校生になったとしても、そこで豊かな人間関係を築くこともできるし、青春だってしていい。高校生でも大学生でも社会人でもない、浪人生という不安定で微妙な立場の人たちにささやかな光を当てる小説を書きたいと思いました」
『飛距離の長い青春』は医学部の受験に敗れ、予備校の医学部専門コースに通うことになった3人の男女が織りなす青春群像劇だ。
「以前に仕事の関係で医学部を目指す受験生たちと関わったことがあるのですが、そのときに『こんな世界もあるのか!』と驚きました。医師になるという目標は皆共通しているけれども、動機や背景は千差万別。血を見るのが苦手なのに親の医院を継がなければならない人もいれば、得意の文系科目を捨てて苦手な理系科目で勝負せざるをえない人、十年以上も医学部浪人を続けている人もいて、それぞれが現実に向き合っていた。予備校生という人生のエアポケットのような時期を生きる彼らのような人たちのことをいつか書かせてほしいと、心のどこかで思っていたのかもしれません。担当編集者の弟さんが医師だったので、現役医学部生やお医者さん、予備校にも取材させていただけて。自信満々で先輩たちと合格発表を見に行って胴上げされるつもりが不合格だった、という冒頭のエピソードは実際の体験談を使わせてもらいました」