※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年6月号からの転載です。

カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンの三大映画祭を制した世界的巨匠にして、長年にわたるイラン政府との自由を巡る闘いでも知られるパナヒ監督。その最新作は、不当に投獄された過去をもつ男女と、彼らに地獄の恐怖を味わわせた看守“かもしれない”男が繰り広げる、異色の復讐劇だ。
夜道を走る1台のクルマが、野良犬と衝突事故を起こし立ち往生。家族連れの男は、修理を求めワヒドが働く工房へ足を踏み入れる。聞き覚えのある音を耳にし、ワヒドの脳裏に忌まわしい記憶が去来。突然現れたこの男こそ、彼を残忍に痛めつけたエグバル、通称【義足】に違いない。そう確信した彼は、男を拉致して荒野に生き埋めにしようとする。だが頑なに否定する男を前に、彼の心に迷いが生じる。じつはワヒドは、エグバルの顔をみたことがないのだ――。