『空五倍子先生の書けない生活』(本田/新潮社)は、書きたいのに書けなくなってしまった小説家と新しく担当となった文芸編集者が再生を目指す、執筆リハビリコメディだ。
主人公は小説家・空五倍子唯生。デビュー小説「再生」がいきなりヒットし、将来を期待された新人作家だった。しかし、その後の彼に待っていたのは長いスランプだった。何も書けず、何にも感動できない。自分のことを「無用な存在」のように感じてしまうほど心は折れていた。
そんな唯生の前に現れたのが、新しく担当となった文芸編集者・縹ちとせだ。やわらかな雰囲気をまとった彼女は、書くことから遠ざかっていた唯生に再び筆を持たせようとする。しかし唯生を励ましてくれたと思いきや、その後に彼女が語り出したのは出版業界のひどい話、つまりゴシップの数々だった。作家の心を動かすきっかけが美しい言葉ではなく生々しい噂話というところに本作の面白さがある。だがスランプの解消に関係がなさそうに感じるその言葉の裏には、確かに「この人の作品をもう一度読みたい」という編集者としての熱さを感じるのだ。そんな作家と編集者が単なる仕事相手ではなく、素晴らしい作品を生み出すために並走する関係として描かれているところも見どころである。