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  • 映画『急に具合が悪くなる』の公開を記念し、濱口竜介監督へのインタビューが実現した。原作は、哲学者・宮野真生子さんと人類学者・磯野真穂さんの魂の交流を記録した往復書簡。濱口監督はこれを映画化するにあたり、舞台をフランスの介護施設に設定。劇中ではフランスで生まれたケア技法「ユマニチュード」を取り入れ、言葉の壁を超えて境界線が溶けていくような対話を描き出している。テキストそのものをなぞるのではなく、作品の本質をフィルムへと落とし込んだ監督に、原作への誠実なアプローチや映画作りに込めた想いを聞いた。



    ――『ドライブ・マイ・カー』以降に受け取った企画提案のなかで、『急に具合が悪くなる』だけが濱口さんを突き動かす何かを持っているように思えたと、インタビューで語っていらっしゃいました。


    濱口竜介(以下、濱口) 自分がずっと「映画にしたい」と思っていたものがここにあった、と感じました。つまり、誰かと誰かが本当に深く出会う、魂の邂逅ということです。言葉にすると嘘くさいし、フィクションとして描こうとすると、自分自身も絵空事に感じてしまうかもしれない。対して原作の『急に具合が悪くなる』は、哲学者の宮野真生子さんと人類学者の磯野真穂さんが往復書簡というかたちで、本当に互いの深い部分に触れるような交流を重ねた記録なわけです。どうすればこれを映画にできるか、まったくわからないけれど映画にしたい、と強く思いました。それこそ不可能かもしれないけれどやってみよう、と。


    ■日仏合作の突破口となった、ケア技法「ユマニチュード」との出会い


    ――その、手探りの状態のなかで、フランスの介護施設を舞台にしようと決めたのは、作中でも語られるユマニチュードというケア技法に、もともと濱口さんがご興味を抱いていたからなんですよね。


    濱口 そうですね。企画提案をいただきながら、どうすればいいかわからないまま、2年ほど過ぎてしまったころに、シネフランスというフランスの制作会社から一緒に映画をつくらないかと誘いがきたんです。そこで、一つの突破口が見えた気がしました。宮野さんと磯野さんがかわしている、学問的であり、抽象度も高い対話のようなものに、おそらくフランスの観客は慣れている。つまりプロデューサーもこれを企画として考えやすい。日仏合作にすることができるのならば、その対話をちゃんと生かした作品にできるかもしれないと思ったんです。では、実現するために必要な、日仏を繋ぐものは何かと考えたとき、フランスで生まれたユマニチュードというケアの技法が架け橋になってくれるんじゃないだろうかという予感が生まれた。そんな曖昧な出発地点から、始まりました。


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