忙しい日々、あなたを癒してくれる場所はどこだろうか？ 温浴施設、山、海…人それぞれさまざまな癒しのスポットがあるだろう。お気に入りの飲食店、という人もいるかもしれない。

『くちべた食堂』（梵辛/KADOKAWA）は、定食屋店主とお客の微笑ましい交流を描いたグルメコメディだ。作品に漂う心地よい雰囲気が、まるでお気に入りのお店を見つけたかのような高揚感を与えてくれる。読み進めていくうちに、この物語の常連になってしまうだろう。

　5年間入れなかった定食屋に、ついに足を踏み入れた柳凛（ヤナギさん）。料理に感動し、その思いを伝えたいが恥ずかしさと緊張で言葉が出ない。一方、店主のくちなし日代乃（くちなしさん）も、やっと入店してくれた彼女に声をかけたいが、うまく言葉が出てこない。

　そんなふたりの、想いを言葉にできない様子はじれったくも微笑ましい。

　タイトルに「くちべた」とあるだけに、ふたりとも中々言葉が出てこないたちだ。しかし、心の中ではたくさんの想いに溢れている。好意をうまく言葉にできないさまは、どこか初々しい恋愛のよう。実際に交わす言葉は多くなくとも、振り絞った言葉が互いの心を掴み、想いが伝わっていく。

　やがて店主とお客という距離のある関係から、良好な関係に発展。その様子を見ていると、自分も「両思い」になれるお店を探してみようか…なんて、わくわくした気持ちが湧き上がってくる。

　Twitter（現：X）総いいね数100万超えと大人気の『くちべた食堂』。読めばじれったくも微笑ましいグルメコメディの常連になってしまうこと、間違いなしだ。

文＝ネゴト / カリス魔王ＴＫ