※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年8月号からの転載です。
〈ヤングケアラーはえらい、親孝行だって称賛、あるいはヤングケアラーはかわいそうだって物語に、ヤングケアラーに同情して救った気になってんじゃねえよって物語をぶつける〉〈読者の数が増えれば増えるほど、社会の物語をカウンターの物語が塗りつぶしていく〉――。
作中で、この言葉を放つ、女性新人作家から、物語は立ちあがっていったという。
「読んでいくうち、自身の介護経験を軸に書いた小説でデビューした日比谷ヒビというその作家に、私自身を重ねる方もいらっしゃるのではないかと思います。『救われてんじゃねえよ』の刊行後、感想をいただいたり、取材を受けるなかで考えるようになっていったのは、自分の当事者性みたいなもの。そして当事者として小説を書くことを、小説で表現してみたいと思った。そのとき、この人物が立ち現れてきたんです」
デビュー作『救われてんじゃねえよ』に、高校時代、難病の母の介護をした自身の体験が流れていることから“元ヤングケアラー作家”と称されたこともあったという上村さん。
「近年、芥川賞を受賞された市川沙央さんや安堂ホセさんなど、ご自身の体験や出自を活かした作品が取り上げられるとき、作家自身にフォーカスされる傾向が強いなと思うことがあって。私自身はテキストに書かれたものがすべてだと考えているのですが、自分がデビューした時も、作品に注目していただけたのは、10代で介護をしていたという当事者性に拠るところも大きかったのではないかと。作品を読んでいただくうえでそれが優位に働いた部分であったことは理解しているのですが、それで小説の価値が決まるのかということもすごく考えていて。日比谷はそれについて苦しんでいる作家です」