※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年8月号からの転載です。
会社でおならをしてはいけません、と怒られたことはあるだろうか。たいていの人は、言われずとも理解している。どうしてもしたくなったら、こっそりバレないようにするだろう。だけど上坂さんの友人は違う。誰かがおならをすれば、みんなでじゃれあい、笑いあう家庭で育った彼女は、会社でもためらいなくおならをしていた。そんな友人に対する愛おしさが炸裂した「つやつやの宝石」という一編から、エッセイ集『会社ではおならをしてはいけません』は始まる。
「今作に収録されているエッセイはどれもうまく書けた自負があるんですけど、『つやつやの宝石』はとりわけ気に入っているんですよ。彼女は、人間関係で揉めることの多かった私と、10代のころから今もずっと友達でいてくれる人。会社で怒られるまで、おならが恥ずかしいものだなんて考えもしないまま生きてきた彼女との関係が、今もこうして更新され続けていること、大事なものをちゃんと大事にできていることが嬉しくて、かたちに残しておきたかったんです。個人的な思い出としても、希少性という意味でも、ずば抜けた輝きを放ったエピソードですしね」
確かにずば抜けてはいるが、希少性という点では、他のエッセイも負けてはいない。たとえば、月30万円払うから弟子にしてほしいと、見ず知らずの女性からDMをもらったというエピソード(「めずらしい出来事」)。