たった一度、手を握っただけ。それだけの記憶が、生涯忘れられないものになることがある。
村上春樹の大長編『1Q84』全6巻(村上春樹/新潮社)。この奇妙な物語を読み終えて、いちばん胸に残ったのは、そのことだった。二つの月、謎めいた宗教団体、リトル・ピープル、空気さなぎ、そして、物語と現実の境界が崩れていく世界。この物語には、説明しようとすると途方に暮れるような謎がいくつも出てくる。それらが何を意味するのか、最後まで明確な答えが示されない謎も多い。だから、「『1Q84』は難解だ」とよく言われるのもわかる。けれど、読まないままではもったいない。だって、きっと難しく考えすぎなくてもいいのだ。物語は、すべてを解き明かすためだけのものではない。じっくりと感じ取ってほしいのは、これが愛の物語だということ。そして、その愛の形が思いがけないほどピュアだということだ。