長くイギリスに住み、日本とイギリスの狭間で揺れ動く社会を見つめ続けているライター、コラムニストのブレイディみかこさん。新刊『それはどこでも起こり得る 壊れゆく世界への抵抗』(文藝春秋)は、イギリスや欧米で使われはじめた「奇妙な言葉」を追いながら社会の深層を探ろうとする意欲的な一冊だ。それらの言葉から浮き上がるのは貧困や差別、右傾化など日本にも無関係ではない実相ばかり。果たしてどんな思いをこめたのか。お話をお聞きした。
いずれ日本にも当てはまる「奇妙な言葉」たち
――どんな観点から本書で取り上げる「言葉」を選んだのでしょう?
ブレイディみかこ(以下、ブレイディ):まだあまり日本では知られていないけど、将来的には日本にも当てはまりそうな言葉だと思ったものですね。ただ書く上では、言葉そのものというより、なぜこの言葉が普通の人の心に刺さっているのかを探りたかったんです。同じようなニュアンスを違う言い回しで言うこともあったりするので、どういう社会状況や政治状況からこれらの言葉が染み出てきているのか、そういう背景というか。英国やヨーロッパの状況を中心に書いていますが、おそらくこうした言葉が生まれる状況は日本にも似ている部分があるだろうし、近い将来に同じような状況になるんじゃないかとも思っています。
私は日本人ですが、イギリスに30年住んでいるので、自分の中に「どこにも属さない感覚」みたいなものがすごくあるんですね。だから選んだ言葉たちは、この感覚が気づかせてくれた面もあると思います。
例えば「自己責任」という言葉は5年くらい前のイギリスでは聞いたこともありませんでしたが、コロナ後にメンタルをやられた若い世代が急増したり、AIの影響も現れて就職難になったことで、「self-responsibility」という言葉で登場するようになりました。日本でも就職氷河期世代の就職難でこの言葉が広がりましたよね。イギリスも全く同じで若い世代が「ロストジェネレーション」と呼ばれ始めている。両国では文化的背景も違えば距離もあるのに、社会が似たような状況になってくると同じような言葉が使われ出しているというのは、なんだか面白いですよね。