※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年9月号からの転載です。
〈お父さん、探すがする。おまえ、殺すがした犯人の人。それがため、お父さん、軍隊の入りますした〉。ヨヨコ、と娘の名を呼ぶカノオという男の独白から始まる戯曲「死の笛」。戦地の厨房で兵士のために食事をつくるカノオと、敵国の調理人・ウスダの会話劇である本作は、坂元さんが脚本を担当したドラマ『初恋の悪魔』がきっかけで生まれた。
「出演者の安田顕さんと林遣都さんで二人芝居をしようという話になり、ご依頼をいただいたんですね。僕はそもそも、俳優が決まらないと書きはじめられないのですが、安田さんのことを考えたとき真っ先に思い出したのが、『ダ・ヴィンチ』で対談したときのことでした。嫌いな人はその人の靴を見るだけでも腹が立つ、とおっしゃっていたのが印象的で、そこから着想を得た芝居なので、カノオはずっと靴をもっています。厨房で働かせることにしたのは、僕がキッチンやダイニングテーブルが好きで、日常と非日常のまじりあう場所として描くことが多かったから。戦場でごはんをつくっているのって、ちょっとおもしろいよなあという思いつきで、緩衝地帯でそれぞれ敵と味方なのに一緒に料理をつくる二人にしようと。そして、夏公演であることは決まっていたから、ホラーっぽくするのが定番かなと幽霊を登場させるというふうに、思いつきを組み合わせていきました」
タイトルの「死の笛」は、古代アステカ遺跡から発見された、人の頭蓋骨のような形状の笛をあらわす。まるで人が悲鳴をあげるようだというその音色は、劇中でも効果的に響きわたる。