※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年9月号からの転載です。
戦争、災害、政治不信。ニュースを見るたびに、ストレスを感じる人は少なくないはず。寺地さんの新刊にも、そんな今の気分が反映されている。
「今、世界でいろんなことが起きていますよね。国内でも、私たちの力の及ばないところで信じられない法案が可決され、毎日のように怯えたり怒ったりしています。でも、仕事や生活もちゃんとしなきゃいけないし、日々の楽しみをなくしたら負けな気もする。そういう現状を、そのままギュッと詰め込みました」
とはいえ、そこは寺地さんのこと、大上段に構えて世相を斬るような小説ではない。なにしろ第1幕は、「死体のそばでおばさんたちがおしゃべりする話」。ミステリー色も漂うが、あくまでも日常の物語が描かれる。「それと政治不信に何の関係が?」と思うかもしれないが、前述したテーマと地続きだという。
「大変なことが起きているけど、それとは関係ないところで話が進んでいく。そんなお話を書きたかったんです。そこで、普通なら死体のことをメインに書くところを、あえて脇に添えました。それにある時期、小説の中でどれだけ何も起こさずにいられるか考えたことがあって。おしゃべりだけで終わるような話を書いてみたいという思いもありました」
舞台は、九州の海沿いにある、閉鎖的な町・白日町。この地で生まれ育った江南は、一度は上京したものの、母親に病気が見つかり帰郷。46歳になった現在は、夫のマキオとふたりで暮らしている。