SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第40回「恋は盲目」
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空いた時間に一人で飲みに行くことがある。最初から最後まで一人ということは殆どないが、約束の前にそうすることが比較的多い。例に倣ってこの日も、私は馴染みの店に足を踏み入れた。するとそこにはご年配の見知らぬおじさんが一人、カウンターでグラスを傾けていた。こうやって書くとなんか小洒落た雰囲気が出てしまうので先に断っておくが、どの角度から見ても綺麗とは言えないお店にお世辞にも綺麗とは言えないおじさんなので悪しからず。
おじさんから一つ席を空けて腰掛けた私は、注文した茶割を飲み始めた。するとわざわざ空けたその席におじさんは、よいしょと詰めて座り直し、隣の私に向かって言った。
「恋は素晴らしいんだよ」
急に何を言っているんだろうと思ったが、とりあえず私は復唱した。
「恋は素晴らしいんですか」
随分と酔っているように見えるおじさんは、満足してうんうんと二度頷いた。酔っ払いとの会話は復唱と、「へエ(興味深そうに)」「まじすか」「すごいっす」で絶対に成り立つから面白い。悪意があるわけではない、これを駆使すると、先輩方はいろんな話を聞かせてくれるので大変に役に立つ。