※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年10月号からの転載です。
小さな町の片すみに、看板をともして30年。「スナックふたり」は、司と逸子、ふたりの熟年女性が営む小さなお店だ。実は川上さん、小説を書いたことのなかった10代の頃から、年配の女性を主人公にした物語を温めていたという。
「まだシスターフッドといった言葉も広く知られていない時代でしたが、50〜60代の女性ふたりのバディものを書いてみたくて。というのも、当時のテレビなどでお年を召した女性を“おばあちゃん”と呼ぶ風潮が嫌だったんですよね。親しみを込めているのはわかるけれど、その年代の女性が画一的に扱われているようで。本来は一人ひとり性格も違うし、若い頃と同じように面白いところもダメなところもいっぱいあるはず。誰も書かないなら自分が書こうと思い、ふたりが車に乗っていろんな場所で誰かと出会うロードノベルをぼんやり考えていました」
ただ、なかなか書くことができないまま月日は流れていった。
「その年齢の女性が、どういう風にものを感じて、日々どんな生活しているか、実感を伴わないことには書けなくて。自分でも『いつ書くんだろう』と思っていましたが、同じ年代になってようやく書けそうだなと。とはいえ、この年になると、もう長旅なんてしたくない(笑)。そこで場所を固定して、お客さんに来てもらう話にしました」