誰しも、なんらかの傷を抱えて生きている。その傷は目に見えるものもあれば、見えないものもある。自身の傷を愛おしんで生きられる人ばかりではなく、少なくない人たちが傷を隠して「なかったこと」にする。だが、それは消えたわけではない。どうしようもなく揺るぎないものとして、その人の深部に横たわる。そういう傷が、私にもある。
初のノンフィクション『くもをさがす』(河出書房新社)が話題となった西加奈子氏が紡ぐ5年ぶりの長編小説『きずもの』(小学館)が、このたび上梓された。長年著者の作品を追い続けてきた私は、インパクトのある冒頭の一文にまず釘付けにされた。
引用----
“松川貢が木下遥に出会ったのは、彼の幼馴染が、自宅に火をつけようとした夜だった。”
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自宅に火をつける。何をどうしたら、そんな事態になるのか。仄暗い疑問を抱えたまま読み進めた先で、私は自身とは異なるジェンダーを持つ者特有の“生きづらさ”を目の当たりにした。