ダ・ヴィンチWeb

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年11月号からの転載です。



2009年に連載を開始したマンガ『暁のヨナ』は、愛する人に父王を殺され、城を追放された姫君の旅を通じて、王国の存亡を描きだす貴種流離譚。累計発行部数は1500万部を突破、アニメ化・舞台化され絶大な人気を誇る同作は、約17年の時を経てついに完結。最終巻の発売を前に、マンガ家・草凪みずほさんに、その想いをうかがった。



物語は、衝撃的に幕を開けた。主人公は高華王国の姫君・ヨナ。従兄であり幼馴染であるスウォンとの恋を父王が認めてくれないことに悩む、そのかたわらにはいつも、護衛であり、やはり幼馴染の青年・ハクがいる。きっとここから、切ない三角関係が始まるのだと思いきや、第1話のラスト――16歳の誕生日、父王がスウォンに斬り殺されるところを、ヨナは目撃してしまう。


「『夢幻スパイラル』という、少女が主人公の妖怪+除霊もののファンタジーにチャレンジしたことがあるのですが、主人公が冒険に出る前に打ち切りになってしまいまして。主人公が能力を使ってバトルしたり、仲間と旅したり恋愛する話を描きたかったという思いが、『暁のヨナ』には受け継がれています。担当さんとの打ち合わせで言った『とある国の姫が誕生日に想いを寄せていた従兄に父王を殺され従者とともに旅に出る話』というアイデアは〆切が迫ってとっさに出たものですが、やはり、たくましく生きる少女を描きたかったので、絶望から這い上がる物語になりました。ファミコン時代の『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などのRPGものに触れたり、『魔神英雄伝ワタル』や『悪魔くん』などの冒険アニメを見て育ちましたので、昔からファンタジーばかり描いていました。そして少女マンガ誌でやるなら、女主人公の恋愛、友情、戦い、の冒険ものが描きたくて。ひたむきに生き抜く女の子に憧れたんです」


そのひたむきさが、読者を魅了した。王位を簒奪したスウォンから逃れハクとともに旅するヨナは、野ざらしの生活でも文句を言わず、足手まといにならないため、多い時には一晩200本、弓の練習を重ねる。蝶よ花よと育てられ、世話されるばかりだった非力な姫からは程遠い姿だが、市井と同じ目線に立つことを覚えても、凛とした姫としての気品を決して失わない姿もまた、魅力である。


「城にいたころのヨナは、周囲の人間から“甘やかされて育った姫”と侮られていましたが、幼少期に母を殺され、泣く父を励ましつつ気丈に生きてきたし、女官たちにもナメられ、ハクやスウォンが側にいない時は独りでぽつんと過ごしてきたので、意外と幸せなだけではなかったんです。そんな環境でも明るく笑顔でいたヨナの強さや健気さを、ハクだけはわかっていました。だから、ヨナは旅のなかで人格が変わったのではなく、もともと持っていたものを解放させて、強さを磨いてゆくような子にしたいなと思って描いていました」


 「ハクはヨナに軽口を叩いたりしますが、根底にある“ヨナに対する絶対的な敬意”がブレないよう気を付けてました。自分は姫さんのものだけど、姫さんは自分のものではないと思っています」という草凪さん。その愛が、ヨナを守る。


歪んでしまった3人の関係が向かっていく先とは


そんな境遇で、スウォンの存在がどれほどヨナにとっての救いだったか知り抜いているのも、ハクである。スウォンになら、ヨナを任せられる。むしろヨナの隣に立つのは、スウォンしかいない。そう信じていたからこそ、ハクのスウォンに対する想いは、怒りの一言では表現しきれない。


  • 続きを読む