愛情がもたらす歪な影は、真っ黒でも真っ白でもない。ぱっきりときれいに分かれていないからこそ、世界は複雑で、生きるのは困難で、人々はグラデーションの中でもがき続ける。
島本理生氏が紡ぐ短編集『グレー・ラブストーリーズ』(筑摩書房)は、川端賞候補作となった初期作品「Birthday」を中心に組み立てられている。こちらの短編は、デビューして間もない頃、文芸誌『群像』に掲載されて以来、どこにも収録されていなかった。「読み返してみてあらためて、自分の小説の核になる祈りを込めた話だと感じました」と著者は語る。また、全作品を通して、著者がデビュー直後から追い続けてきた不変のテーマが軸に据えられている。家族の不協和音を描いた「捨て子たちの午後」、記憶が時折抜け落ちる妹の過去に迫る「壊れた妹のためのトリック」など、全6章の短編とあとがきが収録された本書は、読む者の心に鮮烈な痕を残す。
中でも印象深かったのは、第5章で描かれる「鳥人間だった私」だ。主人公の市子は、10歳の冬に鳥人間になった。鳥人間とは、文字通り肌に羽が生え、鳥のような外見になる症例である。顔ではなく身体を中心に羽が生えるため、服を脱がなければ周囲には悟られにくい。「心的な病気」とされる鳥人間について、著者は次のように綴る。