ダ・ヴィンチWeb


誰かを好きになることは、必ずしも幸せなことではない。会えるだけでうれしい恋もあれば、好きになったことで人生が壊れてしまう恋もある。結婚すれば終わるものでもなく、別れれば消えるものでもない。恋愛小説が面白いのは、そんな「好き」という感情の厄介さを、安全な場所から何度でも体験できるところにあるのかもしれない。


本記事では、ダ・ヴィンチWebで書評・レビューなどが掲載された作品を中心に、2026年に読みたい恋愛小説40作を厳選した。王道の青春恋愛から、結婚、性愛、執着、喪失、恋愛と呼んでいいのかさえ分からない関係まで幅広く紹介する。


※評価は本記事独自のもの。「ときめき」「切なさ」「読みやすさ」「余韻」に加え、その恋がどれくらい読者の胸を苦しくさせるかを「恋のしんどさ」で表した。


▶聖女の告解


▶犯人はキミが好きなひと


▶恋愛裁判


▶恋とか愛とかやさしさなら


▶女王様の電話番


▶余命半年の僕が、死へ急ぐ君と出会った話


▶探偵小石は恋しない


▶キスに煙


▶ホテルローヤル


▶ナチュラルボーンチキン


▶告白撃


▶グリフィスの傷


▶今日のかたすみ


▶星を編む


▶マリエ


▶恋とそれとあと全部


▶汝、星のごとく


▶光のとこにいてね


▶夜に星を放つ


▶エゴイスト


▶愛じゃないならこれは何


▶赤と青とエスキース


▶スモールワールズ


▶オルタネート


▶私は女になりたい


▶ふたり、この夜と息をして


▶この恋は世界でいちばん美しい雨


▶傲慢と善良


▶さんかく


▶じっと手を見る


▶君は月夜に光り輝く


▶余命10年


▶桜のような僕の恋人


▶僕が愛したすべての君へ


▶君を愛したひとりの僕へ


▶君の膵臓をたべたい


▶ぼくは明日、昨日のきみとデートする


▶植物図鑑


▶小説 秒速5センチメートル


▶すべての雲は銀の…


『聖女の告解』(葉月香/ポプラ社)


聖女の告解 葉月香/ポプラ社


死刑囚と向き合うシスター。罪を犯し、死を目前にした男と接するうち、彼女の中に「救済」という言葉だけでは片づけられない感情が芽生えていく――。信仰によって人を救おうとする者と、社会から救われる資格を失ったかのように扱われる者。その距離が近づくほど、「この感情は慈愛なのか、それとも恋なのか」という問いが重くなるラブ・サスペンスである。


甘い恋愛物語とは正反対だ。相手を理解すること、赦すこと、愛することはどこまで同じなのか。本作は恋愛と倫理を危険なほど近づける。好きになったから救えるとは限らず、好きになったことで破滅へ向かう可能性すらある。恋愛小説に幸福だけを求めない人、恋と倫理が衝突する物語を読みたい人におすすめしたい。


評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★


『犯人はキミが好きなひと』(阿津川辰海/ポプラ社)


犯人はキミが好きなひと 阿津川辰海/ポプラ社


好きになる女性が、なぜかことごとく事件の犯人だった――。そんな悲惨すぎる恋愛遍歴を持つ男と、彼をよく知る幼なじみの女性を中心に展開する、ラブコメと本格ミステリを掛け合わせた異色作である。恋をすれば事件が起こる。しかし、それでも人は誰かを好きになってしまう。


面白いのは、恋愛小説では「相手を信じること」が美徳になりがちなところを、本作では「本当にこの人を信じていいのか?」というミステリの疑念が邪魔してくる点だ。好きだから疑いたくない。でも疑わなければ事件は解けない。その矛盾が、ラブコメとしても推理小説としても効いている。甘い恋愛小説だけでは物足りない人、謎解きも一緒に楽しみたい人には絶好の一冊である。


評価:ときめき★★★★★/切なさ★★★☆☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★☆/恋のしんどさ★★★★☆


『恋愛裁判』(深田晃司/文藝春秋)


恋愛裁判 深田晃司/文藝春秋


人気アイドルグループのセンターとして活動する女性が、事務所の定める「恋愛禁止」ルールを破って恋をする。そして、その行為をめぐって彼女は裁判の場に立たされる――。映画『恋愛裁判』をノベライズした作品であり、「アイドルは恋をしてはいけないのか」という問題を真正面から描く。


普通なら恋人同士だけの問題であるはずの恋愛が、仕事、契約、ファン、世間の視線によって「社会の問題」に変わっていくのが本作の苦しさだ。誰かを好きになるという極めて個人的な感情を、他人が禁止することはできるのか。夢を守るためなら恋を諦めるべきなのか。恋愛と職業倫理、個人の自由がぶつかるため、単なる芸能界ものに終わらない。推し文化の時代だからこそ読みたい、2026年らしい恋愛小説である。


評価:ときめき★★★★☆/切なさ★★★★☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★


『恋とか愛とかやさしさなら』(一穂ミチ/小学館)


恋とか愛とかやさしさなら 一穂ミチ/小学館


大切な恋人と、このまま穏やかに人生を歩んでいけると思っていた。ところが、相手が起こしたある行為をきっかけに、これまで信じていた恋人像が崩れ始める。好きな人が「自分には絶対にしない」と思っていたことを、他人にはしていたと知ったとき、その人を以前と同じように愛することはできるのか。


本作が鋭く突くのは、「自分にやさしい人=やさしい人なのか」という問題である。恋愛中は、つい自分に向けられた態度だけで相手を判断してしまう。しかし、人間性は自分以外への振る舞いにも表れるはずだ。好きだからこそ見逃したい、でも見逃した瞬間、自分まで何かを裏切る気がする。恋愛の甘さより「信じるとは何か」を問う作品であり、大人の恋愛小説を読みたい人ほど刺さるだろう。


評価:ときめき★★★☆☆/切なさ★★★★★/読みやすさ★★★★☆/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★★


『女王様の電話番』(渡辺優/集英社)


女王様の電話番 渡辺優/集英社


新卒で入社した不動産会社を辞めた20代の志川が新たに働き始めたのは、SMの女王様を客のもとへ派遣する店「ファムファタル」の電話番。性的なサービスとは距離のある仕事を選んだはずなのに、そこには性欲や恋愛、フェティシズムについて堂々と語る人々が集まっている。そんな環境に身を置くうち、志川は「自分はアセクシャルなのかもしれない」と、自らの性や恋愛感情について考え始める。


恋愛小説といえば「誰を好きになるか」を描くものが多いが、本作が問うのは、そのさらに手前にある「そもそも人は恋愛や性欲を持っていて当然なのか」ということ。誰かを好きにならない人生も、恋愛を中心に置かない幸福もある。“恋をすることが普通”という前提そのものを揺さぶってくれる一作だ。


評価:ときめき★★☆☆☆/切なさ★★★☆☆/読みやすさ★★★★★/余韻★★★★★/恋のしんどさ★★★★☆


『余命半年の僕が、死へ急ぐ君と出会った話』(森田碧/ポプラ社)


余命半年の僕が、死へ急ぐ君と出会った話 森田碧/ポプラ社


脳腫瘍を患い、自分に残された時間が半年ほどしかない高校生・佑亮。そんな彼が屋上で出会ったのは、いじめに苦しみ「死にたい」と願う少女・陽菜だった。生きたいのに死ななければならない少年と、生きられるのに死を望んでいる少女。正反対の二人は、ある約束をきっかけに一緒に過ごすようになり、やがて奇術部に入り、文化祭を目指すことになる。


シリーズを貫く“期限付きの恋”の切なさはそのままに、本作では「死にたい人へ、生きろと言うだけで本当に救えるのか」という難しい問題にも向き合う。相手を救いたいという思いが、いつしか自分自身の生きる理由にも変わっていく過程が胸を打つ。余命ものの王道が好きな人はもちろん、痛みの中に小さな希望が灯る青春恋愛を読みたい人におすすめだ。


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