「もし、人類以外の知的生命体と出会ったら?」「もし、AIが人間と見分けられないほど進化したら?」「もし、別の選択をした自分が暮らす世界が本当に存在したら?」――。SF小説の魅力は、現実には存在しない“もしも”を極限まで考えることで、かえって私たちが生きる現実を鮮明に映し出すところにある。
本記事は、ダ・ヴィンチWebで書評・レビューなどが掲載された作品を中心に、2026年に読みたいSF小説33作を厳選。宇宙、AI、並行世界、ディストピア、気候変動、生物進化、タイムトラベルなど、幅広いジャンルから紹介する。
※評価は本記事独自のもの。「SF度」「世界観」「読みやすさ」「衝撃」に加え、読後にどこまで頭の中の世界が広がるかを「想像力が爆発する度」で表した。
▶おふとんの外は危険
▶プロジェクト・ヘイル・メアリー
▶地図と拳
▶クララとお日さま
▶マイボディ・オン・ザ・ムーン
▶火星の女王
▶アトミック・ブレイバー
▶ファウンテンブルーの魔人たち
▶火星の人
▶アルテミス
▶星を継ぐもの
▶歌うクジラ
▶半島を出よ
▶五分後の世界
▶推しはまだ生きているか
▶カーテンコール
▶時をかける少女
▶旅のラゴス
▶パプリカ
▶三体
▶三体II 黒暗森林
▶三体III 死神永生
▶あの夏、夢の終わりで恋をした。
▶なめらかな世界と、その敵
▶息吹
▶機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ
▶嘘と正典
▶虐殺器官
▶わたしを離さないで
▶アルジャーノンに花束を
▶一九八四年
▶海底二万里
▶地底旅行
『おふとんの外は危険』(キム・イファン/竹書房)
「外は危ないから出ないで」。もし、毎晩眠っている布団が突然そんなことを話し始めたら――。表題作をはじめ、宇宙の終末、人工知能、人体改造など、日常と途方もない空想が奇妙に接続する12編を収録した韓国SF短編集である。
本作の面白さは、「遠い未来の宇宙」といういかにもSFらしい舞台だけでなく、ごく普通の暮らしのすぐ隣に異常を置くところにある。布団という究極に安心できる場所から一歩外へ出るだけで、世界の見え方が変わってしまう。怖いのに、どこかユーモラス。そして奇抜な設定の奥には、人間が何を恐れ、何を求めて生きるのかという問いが潜んでいる。難解な長編SFは少し怖いという人にもおすすめしたい一冊だ。
評価:SF度★★★★☆/世界観★★★★☆/読みやすさ★★★★★/衝撃★★★★☆/想像力が爆発する度★★★★★
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(アンディ・ウィアー/早川書房)
男が目を覚ますと、そこは宇宙船の中だった。自分が誰なのか、なぜ宇宙にいるのかさえ思い出せない。少しずつ蘇る記憶から分かったのは、太陽のエネルギーが何者かによって奪われ、人類が滅亡の危機に瀕していること。そして彼自身が、その問題を解決するため宇宙へ送り出された人類最後の切り札だということだった。
『火星の人』のアンディ・ウィアーらしく、絶体絶命の問題を科学によって一つずつ解いていく過程が抜群に楽しい。だが、本作の魅力は科学だけではない。宇宙で待ち受ける“ある出会い”によって、物語は予想もしない方向へ飛躍する。言葉も文化も身体も違う存在と、人は理解し合えるのか。知的興奮と友情、笑いと感動まで全部入り。「SFは難しい」と思っている人にこそ最初にすすめたい。
評価:SF度★★★★★/世界観★★★★★/読みやすさ★★★★★/衝撃★★★★★/想像力が爆発する度★★★★★
『地図と拳』(小川哲/集英社)
日露戦争前夜から第二次世界大戦終結までの満洲。日本人、ロシア人、中国人らが集まる架空の都市・李家鎮を舞台に、人々が土地を測り、都市を造り、国家を夢見て、やがて戦争へ飲み込まれていく半世紀を描く。
一見すると壮大な歴史小説だが、本作の根底には「都市とは何か」「未来を予測することは可能なのか」というSF的思考がある。まだ存在しない都市を地図に描けば、人はその未来を現実にしようとする。つまり、未来を想像する行為そのものが歴史を動かしてしまうのだ。実在の満洲史と架空の人物・都市を交差させながら、国家や戦争がいかに「想像された未来」から生まれるのかを描く。宇宙船が登場しなくても、ここまでSFになれる。重厚な物語が好きな人へ。
評価:SF度★★★★☆/世界観★★★★★/読みやすさ★★★☆☆/衝撃★★★★★/想像力が爆発する度★★★★★
『クララとお日さま』(カズオ・イシグロ/早川書房)
人工知能を搭載した「AF(人工親友)」のクララは、店頭から外の世界を眺めながら、自分を選んでくれる子どもを待っている。やがて病弱な少女ジョジーに買われたクララは、彼女の家で人間たちを観察し、少女を救おうとする。
物語を語るのはAIだ。しかしクララの視線は、人間以上に純粋で、人間以上に「愛とは何か」を問い続ける。もしAIが誰かを本気で愛しているように見えたなら、その感情を偽物と言えるのか。そして、人間そっくりの存在を作れるなら、愛する人が死んでも「代わり」を作れるのか。静かな文章の中で、技術の進歩が家族や愛情の意味を揺さぶる。派手なSFより、人間そのものを考えさせる文学的SFを読みたい人に。
評価:SF度★★★★☆/世界観★★★★☆/読みやすさ★★★★☆/衝撃★★★★☆/想像力が爆発する度★★★★☆
『マイボディ・オン・ザ・ムーン』(矢野アロウ/早川書房)
月をめぐる未来と、人間の身体のあり方を交差させた近未来SF。人類が地球の外へ進出していく時代、そこで生きる身体は地球上と同じままでいられるのか。重力、環境、テクノロジーの変化は、肉体だけでなく「自分は誰なのか」という感覚まで揺さぶっていく。
宇宙SFというとロケットや開発競争に目が向きがちだが、本作の焦点はもっと個人的だ。身体をどこまで拡張しても、自分は自分なのか。生身であることは人間らしさの条件なのか。月という極端な環境を使いながら、ジェンダーや身体性、自己認識へ踏み込んでいくところが特徴である。巨大宇宙船の冒険より、「未来の身体はどうなるのか」を考えたい人に向く。文学寄りのSFを探している読者にもおすすめしたい。