私の仕事は、政府に都合の悪い歴史を改ざんすること。政治不信が蔓延するたびに世界中で売れる本「1984年」に潜んだ笑い/斉藤紳士のガチ文学レビュー㉒
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世界中で政治不信が蔓延するたびに売り上げを伸ばす不思議な小説がある。 それがジョージ・オーウェルの『1984年』である。 「1984年」はタイトルの通り1984年が舞台の小説である。 しかし、小説が書かれたのは1948年、つまり約30年後の世界を予測して描かれた近未来小説なのである。 現在から40年前の世界を予測して描かれた、さらに30年前の作品が今なお世界中で読まれ、それどころか定期的にリバイバルヒットを繰り返すその要因は一体どこにあるのだろうか? まずは簡単なあらすじを紹介する。 第二次世界大戦後、さらなる核戦争を経て、世界は三つの超大国が分割統治している。 オセアニア、ユーラシア、イースタシアの三国は常に戦争を繰り返し、世界の均衡を保っていた。 どの国も内情は似たようなもので、国民に自由はなく、言論、思想、恋愛なども国の統制下にあった。 主人公ウィンストン・スミスは「ビッグ・ブラザー」による一党独裁制のオセアニアで暮らしており、党の中枢である「真実省」で働いていた。 ウィンストンの仕事は、党にとって都合の悪い歴史記録の改竄作業。 しかし、党の体制に不信感を抱いていたウィンストンは、同じ思いを持つ「創作局」の女性、ジュリアと共に徐々に行動を起こしていくが……というお話である。 細部まで作り込まれた緻密な設定や、ジョージ・オーウェルの予知能力のような先見の明などこの小説の魅力はふんだんにある。