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動物の痛みがわかる“共感覚”を持つ獣医師。「理想郷」の名がつけられた動物園で、彼は命と向き合い続ける

  •  動物園で働く獣医師たちの物語『イーハトーヴのふたりの先生』(山口八三/KADOKAWA)。本作のタイトルになっている「イーハトーヴ」とは、文豪・宮沢賢治による造語で、出身地の岩手県をモデルにした「理想郷」を意味する。


     宮沢賢治は動物をモチーフにした有名な童話を数多く残していることもあり、本作のタイトルを見た筆者は一瞬、童話のような幻想的な世界を思い浮かべた。しかし本作は、動物園で獣医師として働く日常と、命の重さを描き出していく。


     動物の治療方法の描写もじつに細かい。実際に獣医や動物に関わる職種を目指す人にぜひ目を通してもらいたい一作だ。


     岩手県の民間動物園「南部イーハトーヴ」に勤務する獣医師・星野は、幼少期から人や動物が抱えている痛みを自分自身の体で感じ取ってしまう共感覚を持っている。彼が苦痛に顔を歪ませる様は、わたしたちへ視覚的に「物言わぬ動物の痛み」を伝え、動物は人間と同じように痛みを感じる生き物であることを再認識させられる。

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