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シングルマザーが恋に落ちたけれど…? ぞわっとする不穏な日常の先にあった、人を信じることの意味『わたしが誰だかわかりましたか?』

  •  人を信じること。それは一見シンプルなようでとても難しい。年齢を重ね、裏切りや別れを経験すると余計に“信じること”へのハードルが高くなってしまうものだ。


    『わたしが誰だかわかりましたか?』(やまもとりえ/KADOKAWA)は、バツイチ子持ち女性の恋愛・子育て・人間関係などを描いたコミックエッセイ。人を信じることの意味や、信じた人に裏切られる痛みを包み隠さずに描いた、セミフィクションコミックだ。


     海野サチは、離婚をしてシングルマザーになったばかりの42歳。真面目にコツコツ生きてきたのに、友人は親身になってくれず、反抗期の息子と生活するために働く毎日。


     ある日、仕事の集まりでバツイチ子持ちの男性・川上と出会う。彼にもっと触れたい・知りたい、と川上に数年ぶりの恋をするサチ。彼からの連絡に浮き足立つが、一向に会ってくれないことに不信感が募り、川上についてSNSで調べ始める。


     一方で、友人の秘密裏の産婦人科通い、息子が部活を辞めるなど、彼女の周囲ではジワジワと不穏な変化の兆しが。恋愛的要素だけにとどまらず、それぞれの秘密が明らかになっていく様子にドキドキが高まっていく…ミステリー調の読み口が魅力の作品だ。

     序盤は主人公のサチを中心に話が進むが、段々と友人や息子・同僚が抱える苦しみにも焦点が当たっていく。悩みがなさそうに見えたあの人が、こんなことを思っていたなんて…と、読者自身もいかに物事の一面のみを見ていたかを思い知らされる。


     人には人の苦しみがあると頭ではわかっていても、自分の人生に手一杯になっていると忘れてしまうもの。「あの人は楽そうでいいよね」「私の方が辛いのに」といった誰しもが抱いたことのある負の感情を、見事に描ききっている。つい他人と比較してしまいがちな、現代社会を生きる私たちにグサリと刺さるようなシーンばかりだ。


     さまざまな要素が絡み合いつつテンポ良く進んでいくため、一度読み始めるとページをめくる手が止まらない。読後も各登場人物の視点から、何度も読み返してしまうだろう。ぜひ衝撃の展開と共に、人と生きる意味、人を信じる意味を見つめ直してみてほしい。


    文=ネゴト / fumi

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