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俳優・山﨑努の初の自伝、山下智久の特別寄稿も収録。『天国と地獄』の演技が良すぎて、黒澤明が急遽ラストシーンを変更!?【書評】

  • 「俳優」の肩ごしに
    『「俳優」の肩ごしに』(山﨑努/文藝春秋)

     『「俳優」の肩ごしに』(文藝春秋)は、俳優・山﨑努の初の自伝である。ドラマや映画で見る山﨑の演技は、作為的なところが一切なく、自然と役になりきっているように見え、その姿に心を打たれる。この自伝も同じだ。シンプルな言葉で、飾ったところがなく、これまで自身が感じた思いを素直につづっている。


     幼年期から少年期の思い出、新劇に出会い、俳優の道へ——。俳優として生きること60年余り。本書を読んで思うのは、山﨑努という人は、自分の思う俳優の道を真摯(しんし)に歩み続けてきたということだ。自伝といってもプライベートなことはあまり語らず、ほとんどは芝居とどう向き合ってきたのかに費やされる。その中では名だたる人物との出会いが数多くあった。黒澤明、三船敏郎、森繁久彌、山田太一、寺山修司、伊丹十三…。


     山﨑は、1963年公開の黒澤明監督の映画『天国と地獄』で誘拐犯役を演じ、一躍脚光を浴びる。本作は主人公を演じる三船敏郎と山﨑が刑務所で対峙するシーンで幕を閉じるが、本来の脚本ではその後にエピローグが描かれていたという。しかし、2人のシーンの撮影を終えた黒澤は考えを変える。山﨑はそのときのことを次のように回想する。

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