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ニートが就職したのは、ヤクザの会社!? ヤクザにExcelスキルを披露して重宝されていると、組同士の抗争に巻き込まれ…

2024年4月28日

  • ニート極道
    『ニート極道 気がつけばヤクザになってました』(昨夏瑛、裏世界ラボ/宝島社)

     人生、どんな転機がいつ起こるかわからないのが一興だったりする。いま自分がこの仕事をしているのも、突発的な転機に乗っかった結果だと思っている。訪れた転機がどのような結果をもたらすのか。それは乗っかってみないとわからない。もしかしたら本記事で紹介する『ニート極道 気がつけばヤクザになってました』(昨夏瑛、裏世界ラボ/宝島社)のように、ニートからヤクザの道に進むことになるかもしれない……。できれば御免被りたいが、本書の主人公はまさに、この転機がこれまでの自分を見つめ直し、堕落した生活から卒業するチャンスだったのだろう。


     主人公の名前は牧村ユタカ。彼は大学を卒業してから2年間、ニートとしての生活を送っていた。就職するつもりはある、ただ数年就職を遅らせたかった。「就職しないと……」という焦りからブラック企業で働き、体も心も壊れてしまうよりは、数年待ってホワイト企業に就職した方がいいという考えだったのだ。しかし、ニート生活は牧村をどんどん堕落させていく。結果、父親から「1週間以内に出ていけ!」と告げられ、慌てて就職先を探すことに。奇跡的に人材派遣会社への就職が決まり、事務員として働き始めるも、そこがヤクザが経営する会社だと知り、うっかり盃まで交わしてしまうのは、だいぶ先の話……。


     序盤のあらすじだけ読むと、すでに奇想天外。ここから数奇な人生を送ることになった男の話が繰り広げられるのだが、本書の面白さはそこだけに収まらないのが魅力だ。ヤクザという怖い世界の中で感じる人間味が、本書をさらに面白くさせている。


     例えばビジネススキルについて。昨今では、エクセルやワードを使いこなすのは当たり前、マクロを組むことでさえ社会人として必須スキルとなりつつある。しかし、牧村が就職した会社にマクロを扱える人はもちろん、エクセルを満足に扱える人はいない。一般人とは違う道を歩んできたため、そういうスキルが皆無なのだ。そのため、大学時代に扱い方を習っていた牧村は、とても重宝される。依頼された入力業務を終えるごとに、ヤクザたちは牧村に感謝してくれるし、業務効率化のためにシステムを構築すると、社員は牧村のもとに集まり、「へー!」や「ほー!」と歓声を上げてくれるのだ。こんなことを言うのは失礼かもしれないが、本書で描かれるヤクザは怖さと可愛さを感じてしまう。


     牧村も彼らの言葉が嬉しかった。これまでニートとして生活する中で、通り一遍で感情が込められていない「ありがとう」を言われることはあった。ただヤクザから放たれる「ありがとう」は、義理と人情の世界で生きてきた彼らだからなのだろう、本当に嬉しいと感じられる。牧村が、ヤクザの会社だと知ってからも働き続けたのは、こうした人間味あふれる部分に触れていたかったからという理由もあるのかもしれない。次第に、彼の中にも義理と人情が芽生えていく。


     そんな平和な描写が続く中、物語の後半からは、ヤクザ作品ならではの展開が勃発する。組同士の争いが始まるのだ。事務員とはいえ、組長と盃を交わし幹部の一員でもある牧村も、命を狙われてもおかしくない。一歩間違えば、巻き込まれて刑務所行きも免れない状況で、牧村がとった行動とは? 詳細は本書を手にして確かめていただきたい。


     ちなみに本書はYouTubeでも楽しめる。第二部がイッキ見できるようになっており、人間味あふれるかかわりは健在だ。しかし、第一部の内容を知っていないとわからないことも多いため、まずは本書を読み進めてみることをおすすめする。


    文=トヤカン

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